浦安藝大は、8月にこども家庭支援センターから、11月の児童虐待防止月間に向けて一緒に何かできないかという相談を受け、今回の企画がはじまりました。各担当課と連携して、アートを通して社会課題にアプローチする、本事業にとってありがたいお声がけでした。

こども家庭支援センターとのヒアリングのなかで見えてきた児童虐待の防止に向けた課題は、大人への啓発活動だけでは表面化されてこない、子どもたち自身からの声をどのように拾うかということでした。虐待と躾の区別は難しく、昨今では軽く叩くことも「不適切な養育」ということでやってはいけない行為になるなど、児童福祉法が改正されています。保護者に向けた虐待についての周知や、保健師を通じた面談は行われているものの、未だ虐待の有無については不透明さが残っています。子ども自身が虐待を受けている認識が無いケースや、子どもが家庭のことを他者に相談してもいいものなのか、また誰に相談すればいいのかが分からない、などの課題が、今回アートでアプローチするべき目的となりました。

8月から繰り返しミーティングを重ねることで、上記の内容についてさらに抽象度を上げ、「子どもであってもひとりの人間として人権がある」ということを伝えることが、大切なのではないかということになりました。子どもが声を上げられない原因には、大人と会話することへの難しさだけでなく、そもそも自分の感情を言葉にすること自体が難しいのではないのかというところで、本ワークショップでは自分の感情や考えを言葉にするきっかけを作ることになりました。感情の言語化に色を用いることは有効であるということが、8月に行なったワークショップ「浦安ペインティング」で明らかになったため、類似した手法によるワークショップを行うことになりました。

▶︎8月に行われた浦安ペインティングの様子

今回の児童虐待防止月間のワークショップでは「相談できる誰かと繋がる手」をテーマに、その人といるとどんな気持ちになるのかなど、聞きながら色を選び、カラーセロファンを貼り付けていきます。カラーセロファンを貼り終わったら手の形に切り抜き、青少年館の窓に貼り付けて、参加者全員で大きな作品を制作します。


ワークショップの内容

日時:2024年11月13日(水)〜16日(土)
会場:青少年館

❶導入「今の気持ちを色で表してみる」
カラーの短冊から、自分の気持ちを表す色を取り、なぜその色を選んだのか、言葉にしていきます。

❷制作「相談したい誰かの手を色で表してみる」
自分が何か困ったときに相談できる人を想像して、その人の手を色で表してみる。身近に相談できる具体的な人がいる場合は、その人といるとどんな気持ちになるのかなど、聞きながら色を選んでいきます。相談したい人がいないという子どもは、どんな人だったら相談しようと思えるのか、想像を膨らませて色に置き換えてみます。

制作中にファシリテーターとなる大人は、子どもに対してどんな人をイメージしているのか、どんな感情なのかなどを聞き取り、イメージの拡張を促していきます。

❸展示とまとめ「子どもの権利」
作った作品を展示し、自分が作った作品(相談したい人の手)を透かして世界を見ると世界が違って見えるというメッセージを伝えていきます。作品を鑑賞しながら、今の感情を言葉にしてみます。また、制作中に自分の気持ちや考えを、家族以外の大人に話していたということを気づかせていきます。

▶︎児童虐待防止月間中に青少年館で展示された完成した作品

土曜日には保護者と一緒に来てくれた子どももいたため、保護者の方にも市の働きかけを話す機会になりました。5、6年生の参加者が多く、趣旨を理解してくれた子どももいました。色を通して言語化しづらい感情や心の違和感を伝えること、自分の気持ちを大人に説明することは、子どもから大人へ悩みを発信するための練習になります。

子どもを育てる過程には、楽しさやうれしさだけでなく、辛いことや苦労も多いと思います。もし、何か困ったときや辛いときに相談できる場所として、こども家庭支援センターがあります。お父さんやお母さんも、悩みを抱え込まずに「誰かと繋がる手」を差し出してみれば、必ず周りの誰かが手を差し伸べてくれるはずです。

今回のワークショップを通して大人の方も、子どもが普段どんなふうに過ごしているのかを聞く機会になり、身近な大人と子どもの円滑なコミュニケーションの場を、アートで育むことがました。


text: Hiroki Hayashi