浦安駅前にポイ捨てされたゴミをリサーチして、ゴミが生まれる背景を想像した「Value of “POISUTE”」では、ゴミがある場所はただ汚いだけではなく、誰かにとっては切実な居場所かもしれないという価値の転換を行った。夏のウガンダでのワークショップを経て、現在は浦安の第一期埋立護岸についてリサーチを行っている。浦安の土地を拡げる埋立によってできた第一期埋立護岸は、第二期埋立によってその役目を終えて、現在は取り壊すか残すかの瀬戸際に立っているものであり、浦安という都市の「Waste」としても捉えられる。

今回は、ゴミから出発した「Waste」を護岸にまで広げてリサーチしている樫村研究室のプロジェクトのこれまでの経緯とこれからの展開について、樫村芙実さんとプロジェクトアシスタントである蓮渓芳仁さんに伺った。

場所と人によって異なるゴミの価値

ーーまずは樫村研究室の学生たちと夏に行ったウガンダでのワークショップについてお聞かせください。浦安藝大でのプロジェクトと何かつながりは生まれたのでしょうか?

樫村 まず樫村研究室として22〜3歳の学生と一緒にやっている意味は、彼らがこれまで得てきた情報と今まさに彼らが思っていることを掬いあげられることにあります。去年は「微気候観測所」と建物を想起させるテーマでしたが、今年は「Waste」で何がゴミかを問うています。リサイクルやサステナブルということを学生たちと一緒にやることで建築的にどうなるのかを探っていて、ウガンダでも同じことを考えていました。ウガンダは生活のありとあらゆるゴミがポイ捨てされていて、ニュースで見聞きするようなゴミ問題に直面したので、最初はみんなギョッとしてましたね。

蓮渓 僕たちがワークショップの敷地にしていた土地が、住民が日常的にゴミ捨て場として利用している場所でした。でも、捨てにくる人もいれば、資源として拾いにくる人もいるんです。例えば子どもたちはおもちゃを発見したり、周辺をウロウロしている牛やヤギも生ゴミを食べていたり。牛飼いの人がゴミ捨て場で牛を散歩させて、ご飯を食べさせて、糞をさせて帰っていくみたいなことも起こっていました。土に還るゴミもあるので、燃えるゴミや燃えないゴミが勝手に分別されていきます。それがいいか悪いかはさておき、日本とは違うゴミの在り方が面白かったです。

樫村さん。日本とウガンダの2拠点で活動する建築家であり、東京藝術大学の准教授も務める。
樫村研究室の第1期生で建築家の蓮渓さん。プロジェクトアシスタントとして樫村先生と学生の間に立っている。

ーーある人にとってはゴミ捨て場だけど、ある人にとってはリサイクルショップみたいに、人によって場所の認識が違うんですね。

蓮渓 1〜2週間そこで過ごして住民たちとコミュニケーションを取っていくと、ゴミ捨て場を汚いものではなくただの風景だと思っている人もいるし、ゴミを減らそうという考え方も特に持っていないことが分かりました。ゴミ捨て場があるから家を綺麗に保てている側面もあるので、ゴミが捨てられているから悪いかというと、そんな単純なことではありませんでした。そういう考え方や視点は、浦安をリサーチしていくなかでも得ていたんですが、ウガンダを経ることでより一層その考え方が際立ちました。学生にとっても日本と極端に異なるゴミの捉え方を目の当たりにすることで、浦安の中で起こっている現象と照らし合わせたときに、より深く理解できるものがあったと思います。

ーーゴミの捉え方がまるっきり変わりそうですね。ゴミの意味の範囲が広がっていくというか。

蓮渓 なので、最初は浦安藝大でも「ゴミ」をタイトルに据えていましたが、途中で「Waste」に変えました。浦安のゴミ収集センターも見学しましたが、ゴミ捨て場のゴミをどうするかから考えると、僕たちが「ゴミ」だと捉えている限定的な範囲からスタートしてしまいます。だけど、もう少し広く抽象的に捉えられる「Waste」をタイトルにすることで、僕たちがゴミだと思い込んでるものは実はゴミではないんじゃないか、反対にゴミだと思ってなかったものを、僕たちの行動によってゴミにしているんじゃないかと、そんなふうに視野を広げて街を捉え直せるんじゃないかと思いました。

樫村 ウガンダから帰るバスの中でタイトルを変えたんですよ。

ウガンダのワークショップでは、ゴミ捨て場の土地に木の棒で制作したストラクチャーを設置。洗濯物になったり、お使いの途中で休むベンチになったり、人によって自由に価値が見出されている。

小さなゴミと大きな護岸を「Waste」で結ぶ

ーー浦安藝大では「Value of “POISUTE”」として、浦安にポイ捨てされたゴミをリサーチしてましたが、ゴミを「Waste」と広く捉えることで第一期埋立護岸にたどり着いたんでしょうか?

樫村 「トマソン」をご存知でしょうか? かつて役目があったものの、今ではなんの役にも立ってない無駄な建築物のことです。都市のゴミのような存在のトマソンを探して観察すると、都市の歴史的な経緯などいろんな背景が見えてくると言われています。ゴミというと一般的な廃棄物を想像しますが、それだけじゃないよなとずっと考えていたところ、都市のゴミとして護岸が浮かび上がってきました。まさに護岸は今は役目を終えて不要になっていますが、捨てようにも捨てられず残っているものです。

また、浦安を大きなスケールで捉えたときに、浦安らしいものが我々の興味と繋がるといいなと考えていたのもあります。あとはオマケですが、去年のリサーチではマラソンで海に向かって浦安を縦断したので、今年は護岸で横断するという2軸があるといいなと思いました(笑)。やっぱり浦安は巨大なので、建築でアプローチするからには、大きいスケールと小さいスケールを結びつけられたらと、今回は「Waste」を通してゴミと護岸を結びつけました。

《7430m 浦安の背骨を身体でスキャンする》去年のプロジェクトで浦安の土地の特徴をまずは身体で捉えるために、江戸川の堤防を起点に元町、中町、新町を貫く約4.8kmの境川沿いを海に向かって走った様子を記録した。

ーープロセス展では浦安市役所のごみゼロ課と都市計画課の職員、そして市民に向けて報告会が行われましたが、ゴミから護岸への飛躍ともとれる対象の移り変わりに、みなさんが戸惑っている印象を受けました。

蓮渓 護岸とゴミを同じ「Waste=無駄」というテーマで括っていることに違和感は抱いているのを感じました。スケールが横断しているだけで、同じようなものだと捉えるのは、なかなか難しいのかもしれません。それが伝わるように、最終的なプロジェクト展でのビジュアルなり、ワークショップの空間なりで、ふたつを繋げられたらいいですよね。

プロセス展では樫村研究室による《Value of “POISUTE”》と《Value of “GOGAN”》でのリサーチについて報告会を開催。

樫村 我々は浦安市が抱える9つの課題の中で「ごみの減量化」と「第一埋立護岸の利活用」を選んでいますが、護岸についてリサーチしている今も、「ごみの減量化」は捨てていません。「第一埋立護岸の利活用」だけに絞っても伝わることは伝わるんですけど、やっぱりゴミを減らすことと一緒に考えていくことが、ひとつのキーになってくれるといいなと思います。

《Value of “POISUTE”》浦安市のごみゼロ課の職員と一緒に浦安駅を中心に5つの地点を周り、落ちているゴミを記録。ゴミを赤い線、看板などを青い線、歩行者や自転車の動線を青い点線、影をグレーの面で記録した紙を重ねることで、ゴミの種類や落ちていた場所、人の動線を観察しゴミがポイ捨てされた背景を想像した。
ワークショップでは街に落ちているタバコの吸い殻からビニール片まで、すべて細かく記録していった。

ーーゴミは生活している誰にとっても身近な存在なので、ゴミをとっかかりに「Waste」について想像を広げていきやすそうですね。ウガンダのゴミ捨て場もおそらく時間を経るごとに資源の再利用など人によって価値を見出されていきましたが、護岸にもそういう可能性があるのでしょうか?

樫村 ウガンダのゴミ捨て場の土地は川がある湿地なので、地面がぬかるんでいるんですね。だから土地自体の価値はかなり低くて、ある意味見捨てられしまっているので、ゴミを平気で捨てる人がいます。一方で井戸もあるので水を汲んだり、自分の家のそばの土地として活用している人ももちろんいて、そういう全く異なる価値が混在している面白さを、護岸にも当てはめることができるかもしれません。

護岸も全長2.5kmと長いので、ある人にとっては不要でも、ある人にとっては家の目隠しとして役立つ側面があります。家を購入したときから護岸がそばにあるから「なくなるなんて考えられない」という人もいますし、それぞれにとっての護岸の存在意義や場所の在り方が2.5kmの護岸の中にもあることが、見えてくるといいかもしれません。ウガンダのゴミ捨て場を見た影響もあるんですけど、護岸にもいろんな価値を見出すことができたらと、リサーチを進めています。

《Value of “GOGAN”》護岸の周辺の土地がどう活用されているのか、護岸を挟んだ反対側の道まで直線距離比べてどれくらいの時間_かかるのか、普段見えない上水や下水の管がどう張り巡らされているのかなど、護岸の周辺ををリサーチすることで、普段意識しない街の姿やインフラが浮かび上がってきた。

大きな護岸との小さな関係づくり

ーー12月8日に開催予定の護岸横の緑道を歩くワークショップでは、気になる場所や面白いと思う場所に布を張っていくんですよね。そうすることによって参加者にとっての護岸に対する見方も変わってくるかもしれませんね。

蓮渓 そうですね。去年のワークショップでも小さいテントのように公園に布を張りましたけど、建物を建てるだけが建築ではなく、そこがどういう場所なのか探していくこと、さらに少しでも手を加えていくことから、建築が始まっていることを共有できるんじゃないかと思います。

去年の樫村研究室のプロジェクトでは、明海の丘公園の広い芝生に参加者たちが布を張り、自分たちの居場所となるヤネを探すワークショップを開催した。

樫村 例えばツリーハウスや隠れ家を作るときは、自然の中にすでにある囲われた空間を見つけて、そこにもう少し手を加えて自分だけの場所にしていきます。そんなイメージだと皆さんに共有できるかもしれません。

12月8日のワークショップでは、一人ひとりの場所を探していくというよりは、長い帯のような護岸に溜まれる場所が実は隠れてるということに、少しでも気づいてもらえるといいなと思っています。護岸のそばは、普段は自転車でさっとで通り過ぎていくようなスピード感のあるエリアですが、ゆっくり歩きながら移動してみることで、護岸と緑道の繋がりが見えてきて、それまで漠然と抱いていた護岸の印象が変わるかもしれません。

ーー護岸だけじゃなくて、他の場所の捉え方にも影響を与えていきそうですね。

樫村 そういうことが起きてくるといいですよね。やっぱり我々は浦安に住んでるわけじゃないので、外から来た人間だからこそ「浦安にはこんな場所があります」と提示できるといいなと思っています。普段賑わってる場所をもっと盛り上げることももちろん大事ですけど、あんまり目が向けられていないところに、スポットライトを当てることも重要なのかもしれません。

蓮渓 護岸がこの先どうなるか分かりませんが、数センチ単位でも護岸に対する人の価値観や時間感覚が違っているはずなので、もしなくなったりと極端に姿が変わるまでの間に、その場所と人のコミュニケーションをどう作れるかを考えられるといいですね。浦安藝大という短期間で行われているアートプロジェクトだからこそできることがあるかもしれません。

ーー現在、具体的にどんなことを進めていますか?

樫村 今年の学生たちは描くのが好きで得意なので、今まさに護岸のリサーチとして護岸沿いにある樹木の位置や枝ぶりを樹木台帳のように記録しています。浦安市役所の公園課の方に樹木台帳がないと伺ったので。記録していくと、緑道の中にも通り抜けられるところもあればそうでないところもあることや、樹木も低木や高木があったりと、かなりバリエーションが見えてきました。その発見から何ができるのだろうかと、アイディアを出し始めてる段階です。

ーー現時点で何か面白い発想はでてきていますか?

樫村 護岸を挟んだ第二期埋立地側には、ホテルや大学といった大きな施設がたくさん並んでいます。対岸に建つ大きな施設から護岸を見下ろしたときに、緑道はどう見えるのかという話をしている学生がいて。緑道を小さいスケールで歩いていく視点と同時に、高い場所から眺めると巨大な帯に見える緑道を、大きなスケールで捉える視点を入れていくことを考えています。

ーー時間のスケールや大小のスケールを横断して考える建築的な視点がすごく面白いです。

樫村 作るだけじゃないというのが楽しいんですよね。建築を学んでその視点を持つことで、建築に限らずいろんな分野で活かせると思います。浦安藝大では、何かしら形や記録として残るので、必ずしも建物や構築物にならなくても、「建築とはこういうものかもしれない」という視点が浦安という舞台を通して見えてくると面白いですし、それが建築の文脈じゃなくてアートやイベントの中で語られることのも、我々としては興味深いです。

蓮渓 ゴミも「残す」か「なくす」か、あとは「利用するか」というふうに捉えられがちですが、解像度を上げていくと、それをどう残していくのか、どう利用していくのかの話になってきますし、もっともっと解像度をあげていくと、なくすはなくすけど、それまでの期間をどう利用するかとか、いくらでも面白がれます。そんなふうに二元論的なことではないことを、浦安の人たちと一緒に考えられたらいいですね。

インタビューの中で「ある日護岸が仮囲いに覆われたら」という例え話が持ち上がった。見慣れた街でも、突然仮囲いが現れることで初めてそこにあったものを認識することがよくある。しかし仮囲いに覆われたら、もう元の風景を見ることは叶わない。

生まれた時から護岸がある人にとっては、護岸は風景の一部でもある。もしかしたらなくなるかもしれない護岸は、浦安にとっての「Waste」と同時に浦安の歴史を象徴するものでもある。そんな護岸との関係性について、いま一度考えられる機会になるかもしれない。

ウガンダのゴミ捨て場のように、場所の使い方や関わり方は時間の経過や人によって変わってくる。小さなスケールと大きなスケールを横断しながら、時間のスケールも飛び越えていろんな方面から考えていく建築的視点を樫村研究室が提示することによって、浦安の人は護岸に対してどんな価値を見出し、またどんな関係を結んでいくのだろうか。

樫村研究室プロジェクトの今後の予定はこちらをご確認ください。