佐藤さんは身体表現やパフォーマンスを行うアーティストで、2023年度東京藝術大学先端表現研究科の修士課程を修了しました。現在は中学校・高等学校の教員として働く傍ら、表現活動を続けています。幼少期浦安市に住んでいた時期があり、今回は久しぶりの訪問となりました。

横山さんは写真作品を制作するアーティストで、佐藤さんと同じく2023年度に東京藝術大学先端表現研究科の修士課程を修了しました。現在はフリーランスのフォトグラファーとして、記録撮影や作品制作を行っています。浦安市出身・在住で、小さい頃から護岸が日常生活のなかに存在していたそうです。

インタビューでは、それぞれの浦安との関わりから、2つのプロジェクトに至る経緯、ワークショップを通してみえてきたことについて伺いました。

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―二人とも東京藝術大学先端芸術表現学科の出身ですが、在学中から一緒に作品作りをしていたのですか?

横山:二人とも2024年3月に先端の大学院を卒業したのですが、在学中は研究室も違うし、喋ったこともなかったです。たまたま浦安藝大の事務局に浦安出身の若手アーティストとして声をかけられて、集まってみたら、たまたま同期だったんです。

横山渚さん

―浦安藝大がきっかけで知り合ったんですね!それは意外でした。初対面で一緒にプロジェクトをつくっていくことはハードルが高そうですが、引き受けた理由はなんだったのでしょう?

佐藤:純粋に声をかけてもらって嬉しかったし、浦安で生まれたっていうのがずっと自分の中にあって。そのわりに浦安について考える機会がないまま過ごしてきたので、これをきっかけに久しぶりに浦安を見て、何か気づきがあるんじゃないかなと思って引き受けました。 

佐藤桃子さん

横山:私は最初、「横山さんワークショップできますか」って声を掛けられたんです。どうしようか悩みましたけど、やっぱりアーティストの夢じゃないですか、地元で作品をつくるって。これまでの作家活動とは違う路線だし、ワークショップもやったことないけど、ももこさんいるなら大丈夫でしょって感じで受けました。

―二人は「浦安のすきまをみつける。」プロジェクトで、「護岸アーカイブプロジェクトー埋立地の記憶を保存するー」と「イスtoベンチプロジェクト」という2つのワークショップを手掛けていますね。まずはこの二つの企画が生まれた経緯を教えてください。

横山:浦安藝大が取り組む9つの地域課題がありまして、今年はこれらの課題のなかから作家自身がピックアップして、そのテーマについて考えてみる形でどうですかって事務局から提案があったんです。私はもともと写真をやっていたので、記録とかアーカイブとかそういうキーワードに興味がありました。なので「第一期埋立護岸の利活用」が気になっていて。

浦安藝大が取り組む市の今日的な社会課題

佐藤:「社会的孤立の防止」のほうは、渚さんが中学校に行けなかった時期の話がきっかけでした。浦安に住んでいて同じように孤独を感じいてる人にアプローチできたらいいなって。

横山 :私は去年から浦安藝大に関わっているんですけど、KITAがやっていたワークショップに、私と同じように孤独を感じていそうな子が参加していて、ゆるやかに他の参加者に溶け込んでいく様子を目の当たりにしたこともあって。私たちもそういう取り組みができたらいいなと思っていましたね。あとはやっぱり浦安市らしい場所を選びたいっていうのは、浦安が地元である私たちがアーティストとしてやることの、ひとつのキーポイントかなって思います。

2023年度のプロジェクト KITA「わたしたち(KITA)の実験室」より

―なるほど。「すきま」がキーワードになっていますが、その言葉はどんな経緯ででてきたのでしょうか。

佐藤 :浦安はまちの大半が埋め立て地で、良くも悪くもなんとなく整理整頓されちゃってる。そのなかで例えばちょっと休憩したいな、友達とコーヒー飲んで話そうかなってときに使えるような場所が少なく感じるよねって初めから話していて。まちに余白が少ないというか。

横山 :市役所前の公園も、1人でひっそり休むというよりはみんなで楽しむ場所としてある感じがするんです。ある程度都市計画をする上で、役割が決められた場所が浦安市は多くて。なんかひっそりと一人で居られる場所って本当に少ないんです。そこで余白が少ないまちっていうキーワードが浮かび上がってきて、ベンチのプロジェクトにつながりました。

佐藤 :そういうところから一息付ける場所として、イスをつくるプロジェクトができました。ひとつひとつは単体の椅子だけど、繋げたらベンチになるっていうアイデアが出てきて。ベンチになったら1人じゃなくて他の人とも座れるし、それが繋がりとして見せられたらいいなって。

―浦安にすきまが増えればいいなっていう願いでもあるんですね。

横山 :それもあるし、スキマを見つけられたらいいなでもありますね。

佐藤 :私は結構普段の生活の中で一息つけるスキマを探しちゃうほうですけど、なんとなく自分の居場所が見つけられないみたいな人も居ると思うので。浦安は探せばスキマがあるんだけどそれが見えにくい町だから、「すきまをつくる」よりも「すきまをみつける」の方が合うのかなって、2人で話して決めましたね。

―護岸アーカイブプロジェクトも「すきま」や「余白」のキーワードで繋がっているんですか?

横山 :そうですね。護岸はある意味余白ではないか?みたいな話はしてます。

佐藤 :護岸ってみんな存在は知ってるんだけど、でも特に話題にはならず。町にはずっとあるけど役割はもう終えているとか、存在自体が宙ぶらりんな感じで。そういうところはある意味余白ってところでも共通しているかなと思います。

―確かに、言われてみれば護岸は大きな余白でもありますね。実際に何度かワークショップをしてみて、いかがでしたか?想定していたことと実際にやってみて何か違いとかありましたか?

佐藤 :想定してたのと違ったことは、意外となかったかも。特にアトレで実施したイス to ベンチワークショップ、私はもう完全に成功したと思ってるくらい。

横山:私もそう思う

佐藤 :はじめは椅子をそれぞれで作って、できた椅子をアトレ内の居心地のいいと思う場所に置くっていう内容だったんです。参加者のなかに、イスを置いた場所を選んだ理由を「誰にも気づかれないし、誰のことも気にしなくていいから」って言った子がいて。こちらの意図が伝わった感じがしましたね。まさにそういう場所を私は求めているなと思ったから。

横山 :アトレでワークショップをしたとき、出来上がったイスを各々の場所に置いたまま、一旦集まってお話する時間があったんですね。そのときに椅子を置いたままにしてたから普通にアトレのお客さんで使ってる人がいて。イスの上に荷物を置いて、本屋で買った本とかを入れはじめて、そのイスで。すごいと思った。

イスはベンチとなり、みんなの居心地のいい場所となる

佐藤 :本当に面白かったよね。

横山:アーティストとしてニヤリみたいな気分でした。もっとかっこいい言葉がある気がするんだけど(笑)。

佐藤 :護岸のワークショップの方もいい光景がみれたよね。夏に実施した1回目のワークショップに、1人で来たおじいちゃんと1人できた小学生がいたんです。2人で仲良く喋ってるから、おじいちゃんと孫かなって思ってたんだけど、話をきいてみると全然知らない人同士だったらしくって。その2人の会話してる様子がすごい微笑ましかった。

様々な年齢層が参加するワークショップ

色々説明が足りない所とか、かたどりするのが難しいとか、反省点はあるけど、それでも自然と作業してくれていたし、それを面白がってくれている感じがあったと思う。護岸までてくてく歩いて行って、みんなでランチマット広げながらお弁当食べておしゃべりして、帰ってきてヘロヘロになってるみたいな、遠足に近いような感覚だった気がします。

横山 :私はちっちゃい頃から生活の中に護岸あって、よく遊びに行ってたんですよ。護岸に住みついてた猫がいたので、護岸に寄って撫でたりしてて。そのぐらい生活に密着したものだったので、このワークショップをしてみて「そうか、他の市にはこれがないんだ」って改めて気づきました。

入船エリアの護岸 撮影:横山渚

ワークショップをやる前は、正直あんまり護岸自体に興味を持ってもらえないだろうなって思っていたんですよ。でも実際にワークショップをやって、フィードバックとかを受けたり、参加してくれた人と話したりすると結構みんなちゃんと護岸について考えてくれてたなっていう印象が強くて。それはものすごくありがたいことだし、うまくいったことなのかなって思います。

―私もワークショップに参加しましたが、護岸にまつわる思い出を話してくれる参加者が多かった印象があります。震災のとき液状化して大変だった話とか。

横山 :浦安は比較的新しい町だし、他の市に比べたら歴史も浅いのかなっていうイメージを持っていたんですけど。でも歴史ってすごい昔のことを考えてる気になるけど、本当は現在に繋がるまでの全てが歴史であるから。例えば直近10年のことでも、この先何十年後からみれば歴史になりうるんだなって思って。護岸をアーカイブしようとか、昔のことをいろいろリサーチしたりしてきたし、護岸ができる前の話とか、できた直後のお話ももちろん大事だけど、その後の護岸がその役目を終えた後、現在に至るまで我々の生活にどのように密着してきたのか、歴史の中に含まれるんだなっていうことを改めて実感しました。

撮影:横山渚

―共通の記憶をつくっていくような感覚というか。

横山 :そうそう。それは最初に意図してたわけじゃなかったんですけど、いろんな人と話しているうちに、そういうことなのかもって思っていますね。

―お話を聞いていると、2人のワークショップにはすきまが多いですね。

佐藤 :そうですね。それはすごい大事にしているところかも。護岸のワークショップだったら、護岸に行くまで15分ぐらい歩く時間があるんですけど、そこで色々おしゃべりできたらいいねって思っていたし。イスのほうは社会的孤立の防止をテーマにやってるので、「さあイスを作りましょう!」っていうワークショップじゃあ絶対違うよねって2人で話していて。ゆるっと会話したり何かさりげなく話できたらいいねっていうのは意識しています。

横山 :参加者からいかに言葉を引き出せるかっていうのは大事にしていますね。私はワークショップ経験があまりないからなのかもしれないけど、浦安の人って言語化がすごく上手な人が多いイメージがあって。なーなーにしようと思えばできるところでも、ちゃんと意思を伝えられる人が多いなって、ワークショップをして思いました。

佐藤:ちゃんとピタッと合うような言葉で返してくれる人が多いというか。意見とか、考え方をもってる人は多いと思うけど、その気持ちを伝える習慣がない人っていると思うんです。でも、どちらのワークショップも本当に年齢に関わらずみんな思ったことをしっかり伝えてくれたから、めちゃめちゃ面白かったです。

ワークショプでおこなわれる参加者との対話

―2人にとってもフィードバックが大きいプロジェクトなんですね。半年ほどプロジェクトを進めてみて、改めて浦安はどんなまちだと思いますか?まちの印象が変わったりしたのでしょうか。

佐藤 :解像度はあがったけど、やっぱりもうちょっと知りたいなって感じ。特に自分が生まれたところに行けてなくて、そういうところも見ていきたいですね。綺麗な街だなっていう印象は変わらないし、それはちょっと無機質な感じもあるんだけど、でも少なくともワークショップで接する人たちは人間らしい人が多かった。約1年間みてきたとはいえ、行動範囲は狭かったので、もっと広く浦安市をみたいなという思いがあります。

横山 :浦安でアートの取り組みって言われても、あまりピンとこないというか、今までにない取り組みだなって思ったんですね。浦安市には美術館だったり、アートに関連した取り組みが少ないように感じていて。特にアートプロジェクトなんて、このまちで生活していても出会わないというか。

はじめのうちは、あんまり根付かずに終わってしまうのかもしれないってちょっと思ったりしたんです。でも去年から浦安藝大に関わって、すごい浦安でこんなことできるんだって思ったし、今年からは自分がアーティストの側に立ってみて、余計に浦安でアートの取り組みをやるのは面白いかもしれないって思いが強くなりました。まだ浦安の中には、遊べる場所というか、埋まってない部分みたいなものがあるような気がしています。

―なるほど。2人は浦安に住んでいた時期がある/今でも住んでいると思いますが、生活者として浦安にいるのと、アーティストとして浦安にいるのとでは、違う感覚がありますか?

横山 :全然違うなと思いました。もちろんアーティストとしてリサーチをしていく上で見えてくる新しい部分はたくさんあるんだけど。そうじゃなくて、アーティストと生活者がある種グラデーションになった状態で見えてくるものっていうのもあるんだなって思ったかも。うまく言えないけど。

それは特にアトレでベンチのワークショップをやったときに強く思いましたね。私にとってあのアトレって、本当に地元中の地元なんですよ。めちゃくちゃサイゼリヤとか行ってたし、毎日通ってるレベルで地元なんですけど、そこに私がアーティストとしてやっているプロジェクトの成果物が置いてある光景がなんかあんまりにも、すごい、なんだろうな、アーティストと生活者のグラデーション上のところにいるような気がしてて。みんなで作った作品だっていう気持ちもありつつ、日常の中にアートがあるっていうことをより肉薄して感じたっていうか。すごい言語化がしづらいんですけど。

佐藤 :確かに、普段当たり前に使ってるスーパーとかに自分の作品が受け入れられているっていうのは、違和感でもあるし、喜びでもあるかも。感動っていうか、不思議というか。

最初浦安を二人で歩いて回っているときに、ここでアートプロジェクトって難しいなというか、今まで大学でやってきたことが、ここでも通じるのか伝わるのかって悩んだんです。護岸の型をとるっていって紙を護岸に擦り付けるとか、ショッピングモールのなかに自分でつくったイスを置きましょうとか。でもやってみると、別にアートっていう認識がないにしても、参加者がワークショップを受け入れてくれていたことがめっちゃ良かったなって思ってます。

横山 :アトレに椅子を置いてみましょうもそうだし、プロジェクト展のVR展示もそうなんですけど、何か生活の中で見慣れている場所とか風景を、改めて見つめ直してみると、見え方が違ってくるっていうか。例えば、ここはあの子が椅子を置く場所に選んでたなとか、ワークショップを経て改めて浦安を眼差してみると、アーティストであり、生活者であり、ワークショップを体験した人の目線が入り混じってきている感じがします。

撮影:横山渚

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浦安の捉え方や、プロジェクトへの思いが刻々と変化している様子が印象的でした。浦安に住んでいた/住んでいる2人だからこそ、見慣れた風景を改めて見つめ直す機会を創出できるのかもしれません。今後も「浦安のすきまをみつける。」プロジェクトは続きます。ワークショップの予定もあるので、関心がある方はぜひご参加ください。

(聞き手:屋宜初音)