今回は「中身を知り、プロセスを想像する」をコンセプトに、10月30日(水)〜11月3日(日)まで浦安市役所一階市民ホールで開催された浦安藝大プロジェクトの「プロセス展」についてレポートします。プロセス展では今年度の浦安藝大でプロジェクトを展開している西尾美也+林央子、樫村芙実+蓮溪芳仁+樫村研究室、佐藤桃子+横山渚の3組のプロジェクトの過程を展示しました。

プロセス展にご来場いただいた方は振り返りとして、11月23日(日)から第一期が始まる「プロジェクト展」に来場予定の方はぜひ予習としてご覧ください。

西尾美也+林央子「拡張するファッション演習」

「拡張するファッション演習」は昨年度の浦安藝大から立ち上がったプロジェクトです。「装い」の逸脱や拡張を続けてきたアーティストでありファッションデザイナーの西尾美也さんがディレクターとなり、編集者の林央子さんとファッション研究者の安齋詩歩子さんと共に、浦安市民とファッションの可能性について学び合っていきます。

今年度は第一期海面埋立事業によって作られた中町地区にある今川団地を舞台にプロジェクトが展開されます。約45年前に誕生した今川団地は、当時からの住民も多く、高齢化や孤立、子どもの居場所の少なさなどの課題を抱えています。

子どもからお年寄りまで、どんな人の生活にも密接に関係するファッションを通して、浦安市全体の課題でもある「社会的孤立の防止」にアプローチしていきます。

<あそびを装う>

「拡張するファッション演習」のプロジェクト展では「ウェラブル・トイ(装うことができるおもちゃ)」をテーマにファッションとグラフィック領域を横断するユニット「BIOTOPE」を迎え、「あそびを装う」をテーマにワークショップと展示を開催予定です。

その先駆けとして、プロセス展では10月14日に開催された今川団地主催の文化祭に参加した際の様子を撮影した写真と、制作した洋服が展示されていました。

昨年度もBIOTOPEによるワークショップ「あそびを装う」が開催され、そのときはBIOTOPEのキャラクターが印刷された布やビーズなどをコラージュして、世界にひとつだけのオリジナルトートバッグを制作しました。

今川団地での文化祭では、その発展系としてBIOTOPEが服の型紙を用意。文化祭に訪れた方がそこに絵を描いたものを繋ぎ合わせて、1着の洋服を制作しました。

キャラが描かれた黒の境界線に沿って色を塗り分けている型紙もあれば、境界線なんてお構いなしで自由に色が描かれている型紙もあり、色を塗る人によって個性がまざまざと現れています。

出来上がった洋服をまとう人たちは少し照れながらも、楽しそうに笑っています。スーツを着るとシャキッと気分が切り替わるように、カラフルな服を纏うと自然とワクワクするのかもしれません。同じ服を纏っていても、着る人によってワンピースになったり、反対に着ることでトップスになったり、違った洋服に見えるのもおもしろいです。

プロジェクト展の「あそびを装う」では、連結できるビーチボールを膨らませて、洋服としてまとったりオブジェとして設置したりする予定です。カラフルなビーチボールをまとう人や、今川団地に出現するビーチボールのオブジェを想像するだけで、ワクワクした気持ちが湧き上がっています。

<パブローブ>

西尾さんが全国で展開してきたプロジェクト「パブローブ」が浦安にやってきます。「パブローブ」とはパブリックなワードローブの略で、図書館のように誰でも服を借りられる、公共にひらかれたワードローブを作り出すプロジェクトです。浦安の住民から服を募集するのですが、その際に服だけではなく、服にまつわるエピソードも集めるのが特徴です。

プロセス展ではプロジェクト展に向けて募集された服の一部が展示されていました。「1950年代に中国にいた母からもらった服」「演奏発表会に向けて購入したけど結局着なかった服」「昨年度の浦安藝大の招聘アーティストにサインしてもらったけど、落書きと言われて着なくなった服」などなど。いろんな服がエピソードとともに展示されていました。

服のジャンルもサイズもエピソードの年代もバラバラ。しかしエピソードを読んでいると、服の持ち主の息づかいを感じとれるよう。服を通して浦安の人たちの暮らしを垣間見ることができます。

プロジェクト展では、新浦安アトレで「パブローブ in 浦安」を開催します。そこでは浦安中から集まった服の貸し出しを行います。わたしたちが普段服を選ぶ時はデザインの好みやサイズ、着ていく場所を想定しますが、サイズもメンズもレディースもごちゃ混ぜになった服の中から、エピソードをきっかけに服を選ぶなんてこともあるかもしれません。

そのほか、昨年から続く「循環する社会へ」のレクチャーや、超高齢化社会を象徴するファッションアイテム「シルバーカー」を外に出るのが楽しくなるものに装飾するワークショップも開催予定です。プロジェクト展での展示や今後開催されるワークショップの情報はこちらをご覧ください。

樫村芙実+蓮溪芳仁+樫村研究室「Value of Waste」

樫村研究室は「ゴミの減量化」と「第一埋立護岸の利活用」の課題に対して「Value of Waste」をテーマにプロジェクトを進めています。「Waste」は直訳すると「廃棄物」という意味ですが、ゴミだけではなく役割を終えて不要になったもの、価値が低いとされるものなど、広い意味で「Waste」と捉えてみます。

一見誰かにとっては価値のないものでも、誰かにとっては必要かもしれない。「Waste」の視点を変えてみることで、今まで見えてこなかった浦安の価値(Value)を見つめなおそうとしています。

<Value of “POISUTE”>

ゴミといえば大体の人がネガティブなイメージを抱きますが、視点を変えればゴミがある場所は人の居場所であるかもしれない。そんな仮説をたてて、街に点在しているポイ捨てされたゴミをリサーチして記録した地図がプロセス展では展示されていました。

浦安市役所のごみゼロ課の職員と一緒に浦安駅を中心に5つの地点を周り、ゴミを記録していきました。ゴミを赤い線、看板などを青い線、歩行者や自転車の動線を青い点線、影をグレーに。記録した紙を重ねて、ゴミの種類や落ちてる場所、人の動線を観察することで、ゴミがポイ捨てされた背景を想像します。

ゴミが落ちている場所は、ゴミだけに注目するとただの汚い場所ですが、ゴミが生まれる背景にまで想像を膨らませると、誰かが見つけた切実な居場所なのかもしれないという視点の転換が生まれます。

<Value of “GOGAN”>

次に樫村研究室の興味は護岸へと移っていきます。街のゴミをリサーチする中で、例えば放置された自転車は廃棄物なのか?という疑問が生まれます。まだ実際に使われている自転車かもしれないし、誰かが街中に廃棄した「ゴミ」かもしれない。それは時間をかけて観察しないと判断がつかないこともあります。つまり、時間のスケールが大きくなるほどに「ゴミ」として捉えられるものがあるのかもしれない。すると役目を終えているけれど浦安に残っている護岸が浮かびあがります。

浦安の歴史を象徴する存在であると同時に、すでに護岸としての役目を終えた第一期埋立護岸。視界の遮断や行動の制限にもなっている護岸を、ネガティブなものではなく都市空間を見つめ直すものとして捉えようとリサーチを進めています。

プロセス展では様々な角度から護岸をリサーチした資料が展示されていました。護岸を挟んだ反対側の道までどれくらいの距離を歩くのか、普段見えない上水や下水がどう張り巡らされているのかなどのリサーチによって、普段意識しない街の姿やインフラが見えてきます。


今後は護岸にまつわるワークショップと展示を行う予定です。浦安市民と一緒に護岸に沿う緑道を歩きながら、小さな発見を積み重ねていくことで、役割を終えた護岸に新しい価値観を見出せるかもしれません。プロジェクト展での展示や今後開催されるワークショップの情報はこちらをご覧ください。

佐藤桃子+横山渚「浦安のすきまをみつける。」

「浦安のすきまをみつける。」は、ともに浦安市の出身のアーティストである佐藤桃子さんと横山渚さんによるプロジェクトです。佐藤さんはパフォーマンスを軸に自己と他者との関係性を探る表現を、横山さんは写真を通して現在地を探し場所をとらえ直す作品を展開しています。プロセス展では、「浦安のすきまをみつける。」をテーマに、ふたつのワークショップの様子が展示されていました。

<護岸アーカイブプロジェクト>

埋め立てによって土地を広げてきた歴史を持つ浦安には、今川地区から入船地区へと続く護岸が横たわっています。かつて土地を広げて海の侵入を防ぐために造られた第一期埋立護岸は、第二期埋立によってその役目を終えました。

横山さんは護岸近くで育ったため、護岸が浦安での暮らしの風景として当たり前に存在していたそうです。そんな護岸が、もしかしたらなくなるかもしれない。浦安の歴史でもある第一期埋立護岸の記録と記憶を後世に残そうとするプロジェクトが「護岸アーカイブプロジェクト」です。

プロセス展では、8月18日(日)に行われた第一回目のワークショップの成果物が展示されていました。

一見すると凸凹のあるただの紙ですが、これは護岸の表面をかたどったものです。「ブロックの表面の細かい凸凹を、紙をあてて押し付けることで手のひらに感じることができた」「近隣の護岸同士なのに、なぜ形がこんなに違うのか知りたくなった」「今まで知らずに通りで見かけていたものが護岸だと知った」といった、参加者の感想メモも一緒に展示されていました。

今川地区と入船地区では護岸の表面のデザインが違うこと、ただ通り過ぎてた風景が浦安の歴史を語る護岸であること、紙を通した護岸の手触りによって気づくことができます。紙で記録すると同時に、護岸への興味を持った人たちによって、護岸の記憶は紡がれていくのかもしれません。

プロジェクト展では、浦安公園に護岸を出現させる予定です。浦安公園から海に向かう先の土地は、かつて海でした。昨年度の浦安藝大ではKITAがかつて浦安にあった桟橋を出現させましたが、今年度は失われるかもしれない護岸が現れます。

東日本大震災以降、安全面から護岸に登ることは厳しく禁止されていますが、浦安公園に現れる護岸には登ることができます。さらに護岸の中にワークショップで記録した護岸の断片を展示予定。浦安の歴史の象徴のひとつである護岸の記憶に触れ、思いを馳せる時間が生まれます

<イス to ベンチプロジェクト>

「自分にとっての居場所とは何か?」という問いから、身近にあるベンチに着目した「イス to ベンチプロジェクト」です。

プロセス展では、10月6日(日)にアトレ新浦安で開催されたワークショップで制作したイスが展示されていました。イスは自分の居場所となり、つなげることでベンチにもなります。ひとりで座っているときは居心地の良さを感じていても、誰かと座るベンチに変身すると、途端に自分の居場所を見失うこともあるかもしれません。

しかしベンチも1脚のイスの集まりであり、自分の居場所に変わりないということに気づくと、イスがベンチになっても自分の居場所を失いません。まずは自分の現在地を知ることが、他者と繋がるためには必要だということを、イスが示してくれます。

さらにプロセス展では、「あなたが誰かとつながりを感じたエピソードを教えてください」という問いに、来場者の回答したメモが展示されていました。「息子ととなり同士に座っているとき。何もしなくても安らぎを感じています」「考えが同じでも異なっていても、正直に話をしたとき」「同じ趣味の人との出会い」などの回答がありました。

「月を見上げたとき」という回答も。自分が月を見上げたとき、どこかにいる誰かも同じように月を見上げているのかも。

ワークショップでは自分が居心地良いと思う場所に制作したイスを置いたり、ベンチとしてつなげますが、居心地の良さを感じる場所を見つけるのは、社会の中で自分の居場所を見つけることにもつながります。
プロジェクト展では、ワークショップの様子を記録した映像と制作した椅子を浦安の街に点在させる予定です。展示されたイスが訪れる人の居心地の良い場所として、人と人をつなげてくれるかもしれません。プロジェクト展での展示や今後開催されるワークショップの情報はこちらをご覧ください。