10月14日(土)ワークショップ「素材/材料のこと」

第1回ワークショップは、10月14日(土)午後に中央公民館で開催。参加者それぞれの住まいや地域に関わる記憶を話したり、描いたりすることを通して、浦安と食の関係性について考えるものだった。各自が自分の心の「浦安の地図」を描き、馴染みの深い食材で地図を模したピザを作り、共に食べることを通して、浦安における新しい食を体験し、語り、分かち合った。

▲15名の参加者がお互いに浦安との関係を紹介しあってスタート。

テーブルを囲んで「自分と浦安」の関係を紹介する

マックスは「今、浦安の高速道路の近くに住んでいます」とユーモラスに話したところで一同がリラックスして自己紹介が始まった。

「3人の子どもがいて浦安には15年住んでいます」「中学校の校長先生をしていました」「浦安に住んで30年、すごく住み心地がいいです」「中学校時代の仲間同士でずっと仲良くしていて、よく浦安に遊びに来ています」「生まれてからずっと日の出に住んでいます」「3歳の子どもと一緒に参加しました。外国の文化やアート、教育にも興味があります」「年金生活を楽しんでいます」などさまざまなバッググラウンドや「自分と浦安」を語り合い、打ち解けた。

▲「地図なんて書いたことない」「自信ない」と頭を抱えつつも、考え、悩み、真っ白な紙に自分たちの浦安をスケッチしていく。

それぞれの心の風景、自分の主観で「小さな浦安」を描く

各々にとっての浦安はどのような形をしているのか、それぞれの記憶の中にある「小さな浦安」の地図を赤青鉛筆でA4用紙1枚に各自で描く。マックスは「工場や家の色、目の前のお宅の色、通りの標識、形があって色があるランドマークを描いてください。アートの授業でもない。地理のテストではないから間違いもないですよ」「住んでいる気持ちに沿った地図にすることが大切」と丁寧な声がけを続けた。

▲マックスが描いたチーバくんの隣に自分たちの小さな浦安を展示していく。

ホワイトボードに貼って展示し、小さな「展覧会」を開く

できたスケッチをホワイトボードに貼って展示し、小さな「展覧会」を開いた。「これが最初の展覧会です」というマックスの言葉に、皆どこか恥ずかしそうに、でも誇らしげにも見えた。「緻密に描いているね」「解像度が高い」「よく覚えているなあ」と感想が飛び交った。

▲「炭は食とアートの接点。昔、洞窟の中に住んでいた人々は炭で火を起こし、食事をし、炭を使って絵を描いた」と語るマックス。

「大きな浦安」をドローイング

それぞれが描いた地図をよく見て、一人ひとりの物語を聞きながら、テーブルを覆う2m四方の大きな麻布に「大きな浦安」を木炭でマックスが描き、細部を皆で仕上げていった。

地図をピザで表現するための設計図を描く

さらに、それぞれの地図をピザで表現するための設計図のような地図をもう一度描いた。

実はこの過程は予定になかったのだが、「地図を再度描いてもらうことで、どのようなことを地図で主張でき、どのようなことができないかを確認することができると思ったのです。そうして記憶の地図作りを続けられたので、地図の絵をもう一度描くことが良い軸になるように思えました。必要な作業で、ちゃんと機能したとは思います」と後日語ってくれた。

「浦安はイベントのたくさん入っている箱、食べ物を混ぜながら遊ぼう」とマックス。「チーズは入れたい」「これはブランコのある公園」などと楽しげな言葉も聞こえた。

▲マックスと平田が用意したカラフルで美しい食材やソースで餃子の皮のピザ生地の上に自分たちの思う浦安を描いていく。春のうららかなお花畑のような浦安。

地図のピザを作り、そして焼く

平田のサポートの元、餃子の生地で地図をカタチ造り、地図の色々なエリアやポイントを色鮮やかな食材やソースで彩る。平田とピザを焼き、焼き上がったピザを、マックスが描いた大きな地図の上に載せて重ね合わせ、地域の様々な要素が混ざり合った「浦安の地図」を作った。

「美味しい浦安」を共に食べ、語らう

アルゼンチンで親しまれているマテ茶を飲みながら、「浦安の地図/ピザ」を食し、「浦安の食」「地域コミュニティ」「混成/共生」「アイデンティティ」について語り合った。

▲「自分が作ったピザが一番美味しかった。好きなものばかり選んだからかな?」と語る参加者も。

食べ物もアートもいつも分かち合うために作られる。火を囲んで分かち合うもの

「人間しか料理もアートも作らない。しかも手順も料理とアートは似ています」とマックス。「アイデンティティと料理や味覚も、親に作ってもらったもので個人的な歴史に基づいていますよね。その個人を表すものを集団で分かち合うことが大事なのです。美味しさを分かち合うと、共同体で何がアートとみなされているのかが浮かび上がってきます」

「そして、今日、味と記憶、ランドマークを結びつけるワークをしました。味の記憶は大事なものです。色の世界と味の世界は離れたものではないのです。違う色、違う味、その感覚が頭の中で混ざり、味と記憶が結びつく体験は船の錨のようなもの。今日のように偶然で気まぐれでできた、いろんな味のコンビネーションを味わってくださいね」

マックスが語る言葉を一同が全身で聞き、味わい、噛みしめていた。

「アルゼンチンは移民の国で、こういう気まぐれで作られた発明品がほとんどなんです。あまり秩序が整っていない場所ですが、いろんな伝統を持った人の発明が混ざりあう場所になっています。浦安も古いものに縛られずに新しいものを作れる場所ですよ」とマックス。浦安の未来を照らした。

最後に東京藝術大学の日比野克彦学長から「マックスピザパーティーを浦安名物にして欲しい。家に帰ったら“アルゼンチン人と絵を描いて地図のピザ作ってみんなで食べたんだよ。やってみて”と今日のことを話して、今日の体験をつなげてほしい。学校や幼稚園でもやって新しい記憶を作っていってくださいね」と伝えられた。


10月22日(日) ワークショップ「作るプロセスのこと」

続く第2回ワークショップ「作るプロセスのこと」は10月22日(日)に美浜公民館で開催された。今回は、ピザではなく、巻き飯を作った。

▲海苔の上に平田が用意した漁師ご飯のあさりご飯を盛り付け、地図の色々なエリアやポイントを食材で彩り、巻いて太巻きにし、カットして盛り付けた。

日比野克彦学長から最初に「アートと食をつなげるワークショップですが、料理教室ではなく、アートの授業でもないです。13人の参加者と体験をわかちあってください。アートは非常に孤独で人から離れた場所でやることだと想像するかもしれませんが、実は我々が思うよりも日常に近いところにあります」との話が。

引き続き、浦安の地域に特化したワークショップだが、マックスさんが浦安に滞在してほぼ3週間。食とアートとその結びつきをさらに追求して「どこに根ざしているのか」平田と共に、浦安のあちこちを歩いていて考えたそう。

「今日もいろいろ絵を描いてください。絵が上手である必要はないです。エクササイズをしたあとに、より深く食べ物とアートを結びつけるもののエクササイズをします」と宣言して始まった。

▲浦安は千葉県のゆるキャラ「チーバくん」の舌の部分に位置することに着目したマックス。「舌は食事をするときに一番つかう場所ですね」と語る。浦安は千葉県の味覚を司る場所なのだ。

料理や芸術の起源と浦安のアサリがつながる物語が生まれた

「料理や芸術の起源と、浦安市の起源や伝統の歴史の中にあるハマグリやアサリとのつながりの物語を表現できました。最初のワークショップで感動を感じたものを長時間自分の中で考えたことで、見えてきたストーリーです」とこの図を説明するマックスさん。

「昔、洞窟の中に住んでいた人たちはそこで火を焚いて食事をし、同じものを使って絵を描きました。人類は料理をしたことで始まったともいえます。人が他の動物と違うのは思いや考えを表現すること。世界中のあちこちにある遺跡や遺構から発掘されているのは貝と炭。ダーウィンが南米を旅した時も貝塚があったそうです。浦安はアサリなどの貝が有名ですよね。食の源流と浦安がつながっているのです。このアサリを種に見立てて、そこから生えた浦安の建物を描いてみました。今日のワークショップで使った海苔、海藻も浦安の歴史と関係があるものです」

力を合わせて初めてできた浦安

▲「僕はインターチェンジの近くに住んでいて、この形はフクロウの目を思い出す。僕にとってのプチ浦安」と語り、そのフクロウを炭で描いたマックス。

大きな浦安の家族のテーブル

皆の記憶と日常が凝縮された地図を並べ、目でも舌でも味わった。

「アートは食とだけではなく、人や記憶、生活、地域社会との結びつきで成り立っています。ここで、一人ひとりご自身の浦安をシェアしてください。つながりが生まれたらぜひとも背景が似たものへの想いを馳せてください」というマックス。

▲「みんなの浦安を共有できて良かった」と嬉しそうな参加者も。

マックスはワークショップを振り返って「参加者それぞれが、浦安に異なるイメージを抱いていることに気づく様子を見るのはとても美しいことでした。感情や主観が介在しない地形図作りとは違うところですね」と語ってくれた。

参加者からも「いろんな人と話ができて良かった。こんなにたくさん話せるワークショップはあまりない」「告知文では自分がうまくできるか、よくわからなかったけど体験したらとても良かった」と喜びのコメントが交差していた。「広げられた大きな地図に自分のマップ巻き飯が重なって一つになったときにアートを感じました」との声も。

帰りには平田も一緒に、互いに連絡先を交換し合い、また会うこと、お互いに訪ね合うことを約束して帰っていく参加者の背中には、ラテンの陽気な風が吹いて次へのアクションを促しているかのようだった。


text = Mie Shida

edit = Tatsuhiko watanabe